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じゃんけんと等比級数

はじめに

皆さんは「等比級数の和の公式」とかいう式、


1+x+x^2+...+x^n=\frac{1-x^{n+1}}{1-x} \\

というものをご存知でしょうか?今回はこの式の導出というか、思い出し方を紹介しようと思います。

具体例:1/3

まずは何事も具体例から始めましょう。ここでは無限等比級数の和1+1/3^ 1+1/3^ 2...=3/2を示してみることにします。

さて、AさんとBさんの2人でじゃんけんをすることを考えます。AさんとBさんが完全にランダムに手を選ぶとすると、一回のじゃんけんでAが勝つ確率は1/3,Bが勝つ確率は1/3、そしてあいこで勝負がつかない確率が1/3となりますね。(9通りのうちAさんの勝つパターンが3通り……みたいな感じでここは計算できます、念のため)
ここからが本番です。これからAさんとBさんには決着がつくまでじゃんけんをしてもらいます。一回目であいこになったら二回目に入り、それでもあいこになったら三回目……といった具合です。
そうすると、Aさんが勝つ確率はいくらになるでしょうか?

そうですね、(1回目でAが勝つ確率)+(2回目でAが勝つ確率)+……と無限に足していけばいいわけです。そして、例えば5回目でAが勝つというのは4回連続あいこで5回目にようやく勝つということですから1/3\times 1/3^ 4=1/3^ 5であることでしょう。つまり、求める確率は1/3^ 1+1/3^ 2...です。
しかし今、勝負がつくまでじゃんけんを繰り返しています。そして、AさんとBさんの間に有利不利はありません。すなわち、最終的にAさんが勝つ確率もBさんが勝つ確率も1/2に違いないわけです。
これをまとめると、


1/3+1/3^2+...=1/2 \\

を得ることができます。収束しているので両辺に1を足すことで


1+1/3+1/3^2+...=3/2 \\

が得られました!

以上でなんとなく空気感が伝わったでしょうか。平等なゲームを設計して、ある特定の一人が勝つ確率がいくらになるかを二通りで計算することで導出を行っています。

無限等比級数に限って

さて、今度はなんとk人でゲームをすることにしましょう。どんなゲームだか想像はできませんが、1回このゲームをするとそれぞれ誰かが確率pで独り勝ちし、残りのx=1-kpという確率であいこになるとしましょう。

それでは先程と同様にこれを決着がつくまで繰り返し、Aさんが勝つ確率を求めることとしましょう。
まずは一通り目、(1回目でAが勝つ確率)+(2回目でAが勝つ確率)+……です。n回でちょうどAが勝つ確率は、n-1回あいこが続いてから独り勝ちする確率ですから、これはpx^ {n-1} です。
一方決着がつくまでこのゲームを繰り返したのですから、Aさんが勝つ確率はまさに1/kでなければいけません。いま、x=1-kpから1/k=p/(1-x)ですからこれを代入すると


p+px+px^2+...=p/(1-x) \\

です。収束してますから両辺からpを割ることで


1+x+x^2+...=1/(1-x) \\

を得ます。おお、これはまさしく無限等比級数の和(|x|<1のとき)ではありませんか!

一般の等比級数に関して

順序が逆な気がしますが今度は無限等比級数でない和も考えます。

今度もk人でゲームをすることにします。ゲームのルールは同じで、それぞれ誰かが確率pで独り勝ちし、残りのx=1-kpという確率であいこになります。

さて、今回は決着がつくまでは繰り返しません。n+1回繰り返して決着がつかなかったら諦めて引きわけ(勝者なし)とします。この時のAさんの勝つ確率を求めてみましょう。
まずは一通り目ですが、ほぼ変わりません。(1回目でAが勝つ確率)+(2回目でAが勝つ確率)+……(n+1回目でAが勝つ確率)なのですから、上の議論からこれはpx+px^ 2+...+px^ {n} と計算できます。
次に二通り目です。これは少し改変が必要です。というのも、Aさんたち参加者の間は平等です。ですが、あいこの確率はそれでは決まりません。極端な話、だれも勝つことができず100%であいこになるようなゲームでも平等ですし、1/2であいこで後の確率をk人で等分するのも平等なのですから。回りくどく言いましたが、あいこの確率を先に求めてからそれをk等分する必要があります。しかしn+1回あいこが続く確率なんて簡単で、それは明らかにx^ {n+1} です。残りの確率をk人で分け合えばいいので、Aさんが勝つ確率は\frac{1-x^ {n+1}}{k}でもあります。

以上をまとめることで、


p+px+px^2+...px^{n}=\frac{1-x^{n+1}}{k}=\frac{p(1-x^{n+1})}{1-x} \\

を得ます。kとp,xの関係は先程と一緒ですね。ここで両辺からpを割ることで


1+x+x^2+...+x^{n}=\frac{1-x^{n+1}}{1-x} \\

が導けました。おお、これまさに等比級数の和になっているではありませんか!結局|x|<1の時しかやってないという話もありますが、それでも感動もひとしおというものです(?)

かなしいおはなし

ちなみに、数学的厳密性は一回置いといて無限等比級数の導出だけ考えるのであれば、


y=x+x^2+...\\

と勝手に収束を仮定するとyが1を足してもxで割っても値が同じということを利用して1+y=y/xから直ちにy=x/(1-x)が出てきます。xで割れば無限等比級数の和ですね。いろいろとガバいのですが思い出すだけならこれでいいことでしょう……以上、お役だち情報でした。ちなみに有限の場合も、


y=x+x^2+...+x^{n+1}\\

と置くとx^ {n+1}+y/x=1+yからy=\frac{x-x^{n+2}}{1-x}が出てきます。xで割れば等比級数の和ですね。あれ?じゃんけんいらなくね?でも楽しいのでOKです。

おわりに

昨日せっかく記事を投稿したので、今日も何かしら投稿しようと思ってネタを探したらこれが一番書きやすそうなので書くこととしました。内容的に目からうろこが落ちるようなものではないんですが、文章書くのは楽しいのでこれからも何か書いていこうと思います。